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最高裁判所大法廷 昭和22年(れ)280号 判決 1948年7月29日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人瀬尾藏治上告趣意書第二點について。

裁判所法第二六條第二項第二號によれば、刑法第二三六條(強盗)、第二三八條(準強盗)及び第二三九條(準強盗)の罪は、地方裁判所の合議體で取り扱うことを必要とせず單獨制でも取り扱い得る旨を定めているが、これをもって所論のごとく憲法違反と斷ずることは當を得ない。かかる裁判所の事物管轄及び構成に關する事柄は、憲法第八一條の違憲審査權に關する場合を除いては、他に憲法に特別の規定がないのであるから、国憲の最高機關であり国の唯一の立法機關である国會が、国民の基本的人權を故なく害せざる限り、事件の性質、種類、裁判所の機能、国の実力その他諸般の事情を考量して時宜に適するよう法律をもって規定するところに一任されていると解すべきものと言わなければならない。すなわち、すべては立法當時における理想的な又現実的な国の立法政策によって決せらるべき問題である。そこで、前記裁判所法の規定を設けた主な立法理由は強盗及び準強盗の罪は短期一年以上のいわゆる重罪中の他の犯罪に比すれば、その性質、態様、手段が比較的概ね單純であり從って通常審理が容易であること、これと關連の多いそして相似た類型の窃盗、暴行、脅迫の罪(何れも短期一年未滿の罪)と同様な取り扱をするを適當とすること並びに憲法の要請する審判の迅速のために全裁判所の機能の能率的な運營を圖ったこと等である。しかし、前記規定は、強盗及び準強盗の罪を常に地方裁判所の單獨制で審判せしめるというのではなく、事件の複雜、困難、重要性その他特殊の事情がある場合には、合議體で審理及び裁判をする旨の決定を合議體ですることによって、事件はいつでも合議體で取り扱われることとなるのである(前同項第一號)。かくて、事件の取扱い方に機動性と彈力性を與え、総體として妥當な効率を擧げ得るように定められている。それ故に、上述の裁判所法の規定は、すべて法律をもって定め得ることを當然定めたものであって、憲法の禁ずるような不合理な不公平な差別的裁判審理を定めたものでもなく、又公平な組織、構成を有する裁判所の裁判を受ける国民の權利その他の基本的人權を剥奪したものでもない。從って、論旨は理由なきものである。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由により刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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